「日本にいるとアトピーがひどくなるのに、タイへ行くとほとんど気にならなくなるんです」
こんにちは!新潟市中央区弁天橋通のかんだ整骨院、神田です。
腰痛で当院に通院されている患者さんとの会話の中で、こんなお話がありました。
この方は日本とタイの2拠点で仕事をされているエンジニアです。
どちらにいるときも仕事量は多い。
それなのに、日本ではアトピー性皮膚炎が悪化しやすく、タイへ行くと症状がかなり落ち着くそうです。
詳しく生活について伺っていくと、日本とタイでは「仕事量」以外の部分に大きな違いがありました。
さらに興味深かったのが、腰痛の施術後に、
「皮膚に手がいかなくなる」
「衝動的に掻きむしることが減る」
と話されていたことです。
他の患者さんでも、メインは腰痛や肩こりの治療で来院されますが、
「アトピーが楽になった」
「肌の調子が良いです」
など、副産物的にお話しされる患者さんが多くいらっしゃいます。
今回の患者さんも腰痛の施術でアトピー性皮膚炎を治療しているわけではありません。
では、なぜこのような変化が起こるのでしょうか。
この患者さんとのやり取りをきっかけに、ストレス、睡眠、皮膚、そして「掻くという行動」について医学研究を調べてみました。
結論からいうと、今回のケースでは、単に「ストレスでアトピーが悪化した」と考えるより、
身体にかかる負荷と、そこからどれだけ回復できているのか
という視点で考えると、とても理解しやすくなりました。
- 同じ仕事量でも、感じるストレスが違えば身体の反応も変わる
- 可能性があるアトピー性皮膚炎では皮膚バリア・免疫・神経が関係している
- 「かゆみの強さ」と「掻く行動」は必ずしも一致しない
- ストレスによって掻く行動が増えることがある睡眠とアトピー性皮膚炎には深い関係がある
- 腰痛施術後に掻破行動が減った今回の変化をどう考えるか
- 「ストレスをなくす」より「負荷から回復できているか」という視点
日本にいると悪化し、タイでは落ち着くアトピー性皮膚炎

この方は、責任のある立場で仕事をされています。
日本ではさまざまなクライアントとのやり取りがあり、商品に対する責任も大きいそうです。
仕事自体にはやりがいを感じている一方、
「クライアントとのやり取りには、なんとなく抵抗を感じる」
「責任の重さは、かなりストレスでもある」
と話されていました。
日本にいる間はアトピー性皮膚炎が悪化しやすく、症状が強いときには皮膚科から処方されたステロイド外用薬を使用することも多くなります。
特に悪化しやすいのが、暑い夏と乾燥する冬です。
ところが、タイに滞在すると状況が大きく変わります。
仕事量そのものは決して少なくありません。
それでも本人は、
「タイでは仕事をしていても、それほどストレスを感じない」
と話されます。
そしてアトピーの症状も落ち着き、薬を使う機会はほとんどなくなるそうです。
「忙しさ」と「ストレス」は同じではない
この話を聞いたとき、私は最初、
「タイでは仕事量が少ないから身体が楽なのだろうか」
と考えました。
しかし実際には違いました。
日本でもタイでも仕事は忙しい。
違っていたのは、本人がその仕事をどのように受け止めているかでした。
日本では、クライアントへの対応や結果に対する責任など、精神的な緊張が続きやすい。
一方、タイでは仕事を終えると一人で比較的ゆっくり過ごすことができます。
つまり、
仕事量が多いことと、身体が受ける心理的負荷が大きいことは、必ずしも同じではない
ということです。
日本では眠れない。タイでは朝すっきり目覚める
さらに大きな違いがありました。
それが睡眠です。
日本にいるときは睡眠時間が短く、
「睡眠の質もあまり良くない」
「朝起きるのがつらいことが多い」
と感じています。
それに対してタイでは仕事後にゆっくり過ごす時間があり、睡眠後の目覚めも非常に良いそうです。
アトピー性皮膚炎と睡眠には深い関係があります。
2025年に発表された32研究、85,921人を対象としたメタ解析では、アトピー性皮膚炎のある人における睡眠障害の有病率は約43%と報告されています[3]。
「かゆいから眠れない」という方向は分かりやすいと思います。
しかし睡眠とアトピーの関係は、それだけではありません。
睡眠不足や十分に休息できない状態が続けば、心理的なストレスへの対応や日中の疲労にも影響します。
今回の患者さんでは、
日本では負荷を受けても十分回復しないまま、翌日の負荷が始まる。
一方タイでは、
仕事で負荷を受けても、仕事後に休み、眠り、翌朝には回復した感覚がある。
この違いは無視できないように感じました。
ストレスは皮膚にも影響するのでしょうか?
心理的ストレスと皮膚の関係は以前から研究されています。
医学・歯学・薬学の学生27名を対象にした研究では、試験期間中に本人が感じる心理的ストレスが高くなるのと並行して、傷つけた皮膚バリアの回復が遅くなりました。
その後、ストレスが低下した時期には皮膚バリアの回復も改善しています[2]。
もちろん、
「ストレスがアトピー性皮膚炎の原因である」
という意味ではありません。
日本皮膚科学会・日本アレルギー学会の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」でも、アトピー性皮膚炎は、増悪と軽快を繰り返す、かゆみのある湿疹を主病変とする疾患として位置づけられています[1]。
また近年の研究では、アトピー性皮膚炎のかゆみには、
皮膚、免疫、神経
の相互作用が深く関わっていることが分かっています[6]。
その中で心理的ストレスは、症状に影響を与える一つの要因になり得る、と考えるのが自然でしょう。
「かゆい」と「掻きたい」は同じなのでしょうか?

今回、文献を調べていて私が最も興味を持ったのがここでした。
普通は、
「皮膚がかゆいから掻く」
と考えます。
もちろん、それは間違いではありません。
しかし「かゆみの強さ」と「実際に掻く行動」は、必ずしも一致しないことがあります[4]。
「かゆみ」と「掻く行動」は、必ずしも同じではありません。
アトピー性皮膚炎患者を対象とした研究では、急性ストレス後に実験的に起こしたかゆみは低下した一方で、刺激した場所以外を掻く行動は増加しました[4]。
つまり、「かゆいから掻く」だけではなく、心理的負荷が「掻くという行動」そのものに影響する可能性があります。
※この研究はアトピー性皮膚炎患者15名と健常者16名を対象とした小規模な研究です。この研究だけですべてを説明することはできませんが、今回の症例を考えるうえでは非常に興味深い結果です。
ストレスによって「掻く行動」が増えることがある
この研究では、アトピー性皮膚炎患者15名と健常者16名に、急性の心理的ストレスを与えて、かゆみと掻く行動を調べています[4]。
興味深いことに、アトピー性皮膚炎の患者さんでは、ストレス後に実験的に起こしたかゆみの強さは低下したにもかかわらず、刺激した場所以外を掻く行動が増えていました。
つまり、
「かゆみが強くなったから、その分だけ掻いている」とは限らない
ということです。
今回の患者さんが話される、
「衝動的に掻きむしってしまう」
という行動を考えるうえで、とても興味深い研究です。
なぜ掻くことを繰り返してしまうのでしょうか?

かゆいところを掻くと、一時的に楽になります。
そして、
「気持ちいい」
と感じることもあります。
ここにも理由があります。
fMRIを用いて慢性的なかゆみのある患者さんを調べた研究では、掻くことでかゆみが軽減すると同時に、報酬に関連する脳領域の活動が確認されています[5]。
さらに、慢性的なかゆみのある人では、健常者と比較して、運動のコントロールや行動への動機づけに関係する脳領域の活動が強く認められました[5]。
つまり脳は、
「掻くと楽になる」
という経験を繰り返すことになります。
かゆい
↓
掻く
↓
一時的に楽になる
↓
また掻きたくなる
という行動が繰り返されやすくなる可能性があります。
さらに掻くことで皮膚が傷つけば、皮膚バリアはさらに損なわれ、炎症やかゆみが続きやすくなります。
アトピー性皮膚炎では、このような皮膚・免疫・神経の相互作用によって「かゆみ‐掻破サイクル」が続くことが問題になります[6]。
腰痛の施術後に「皮膚に手がいかなくなる」
ここで、この患者さんの腰痛の話に戻ります。
この方は腰痛の施術後、
「皮膚に手がいかなくなる」
「掻きむしることが減る」
と話されます。
これはとても興味深い変化ですが、解釈には注意が必要です。
腰痛への施術でアトピー性皮膚炎そのものを治療しているわけではありません。
また、
「腰痛が改善するとアトピーが改善する」
という因果関係を示した研究があるわけでもありません。
ですから、
「施術で自律神経が整ったからアトピーが良くなった」
と説明することも、現時点ではできません。
ただ今回、ご本人が感じている変化は、
皮膚そのものより先に「掻く行動」が減る
ということでした。
腰痛という身体的な不快感が軽減し、
「身体が楽になった」
と感じたことで、「掻かずにはいられない」という行動にも何らかの変化が起こっている可能性があります。
ここは、あくまで今回の症例から考えた仮説です。
ただし、「かゆみ」と「掻く行動」が完全に同じものではないことを示唆する研究[4]を考えると、私は非常に興味深い現象だと感じています。
掻かなくなることが皮膚に与える意味
もし施術後に実際に掻く回数が減っているのであれば、それ自体は皮膚にとって意味があります。
掻破が減れば、皮膚を物理的に傷つける機会が減ります。
皮膚バリアへのさらなるダメージを減らすことができれば、かゆみと掻破が繰り返される悪循環を大きくしにくくなる可能性があります[6]。
つまり今回のケースは、
「腰痛の施術でアトピーを治した」
のではなく、
身体が楽になる
↓
衝動的な掻破が減る
↓
皮膚を傷つける機会が減る
↓
かゆみ‐掻破サイクルを大きくしにくくなる
という流れが起きている可能性があります。
この考え方と関連して、「掻くという行動」そのものに介入する行動療法も研究されています。
2024年に発表された6件のランダム化比較試験、計246名をまとめたメタ解析では、行動的介入によって、かゆみの強さそのものには明確な変化がみられなかった一方、掻破の程度と湿疹の重症度は軽減しました[7]。
この結果も、
「かゆみ」と「掻く行動」を分けて考える
ことの重要性を示す一つの材料になります。
今回の患者さんから考えた「負荷と回復」
この患者さんを見ていて、私は「ストレスをなくしましょう」という話だけでは足りないと感じます。
仕事をしていれば負荷はあります。
責任のある立場なら、なおさらです。
大切なのは、
負荷を受けないことではなく、負荷を受けたあとに回復できているか。
ということです。
身体に必要なのは、ストレスがまったくない状態ではありません。
必要なときには働き、集中し、緊張する。
そして必要がなくなったら休み、眠り、回復する。
今回の患者さんでは、「負荷の大きさ」だけでなく、「負荷のあとに回復できているか」という違いが、日本とタイでの身体の状態を考える一つの手掛かりになりました。
※アロスタティック・ロードと職業性ストレスの関係については研究されていますが、研究ごとに測定方法が異なることも指摘されています[8]。そのため、今回の患者さんについて「アロスタティック・ロードが高い」と診断するような使い方はできません。
日本では、
仕事上の心理的な負荷
↓
睡眠時間が短い
↓
朝も疲労感が残る
↓
また次の仕事が始まる
という状態です。
さらに腰痛や、夏の暑さ、冬の乾燥などが重なる時期もあります。
一方タイでは、
仕事は忙しい
↓
仕事後は比較的ゆっくり過ごす
↓
睡眠をとる
↓
朝すっきり目覚める
という流れがあります。
アロスタシスとは?
私たちの身体は、常に同じ状態に固定されているわけではありません。
暑ければ汗をかきます。
運動をすれば心拍数が上がります。
仕事で集中するときには、身体もその状況に合わせて変化します。
その時々の状況に応じて身体の状態を変化させながら、全体として安定を保とうとする考え方が「アロスタシス」です。
そして、こうした適応のための反応が長期間繰り返されることで生じる生理的な負担を「アロスタティック・ロード」という概念で捉える研究があります[8]。
ただし、
「いつでもリラックスしていること」
が身体にとって良いわけではありません。
仕事をするときには集中し、必要な場面では緊張する。
そしてその状況が終わったら、休息し、眠り、回復する。
必要なときに反応し、必要がなくなれば回復する。
今回の患者さんを見ていると、この「負荷と回復」という視点がとても大切なのではないかと感じます。
アトピーが悪化しやすい方に試してほしい3つの観察
1.自分の症状が悪化する条件を書いてみる
季節だけでなく、睡眠、仕事上の出来事、疲労、汗をかいた日などを簡単に記録します。
「何となく悪くなる」から、
「この条件が重なると悪くなりやすい」
へ変わるだけでも、自分の身体を理解する材料になります。
2.睡眠時間だけでなく、朝の回復感を見る
何時間寝たかだけでなく、
「朝すっきり起きられたか」
「疲れが残っているか」
も振り返ってみてください。
今回の患者さんでも、日本とタイで大きく違っていたのが、この「朝の回復感」でした。
3.かゆみだけでなく、いつ皮膚に手が伸びるかを見る
本当に強くかゆいときだけでしょうか。
仕事をしているとき。
考え事をしているとき。
テレビを見ているとき。
寝る前。
無意識に掻いている場面に気づくことも、自分の掻破行動を理解する手掛かりになります。
掻破行動そのものへの行動的介入によって、掻く程度や湿疹の重症度が軽減したという研究もあります[7]。
アトピー性皮膚炎は皮膚科での治療が基本です
ここは誤解のないようにお伝えしておきます。
アトピー性皮膚炎は、皮膚科で適切な診断と治療を受けることが基本です。
「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」でも、薬物療法、皮膚の生理学的異常に対する外用療法・スキンケア、悪化因子への対策を組み合わせて治療することが基本とされています[1]。
今回お伝えした睡眠、心理的ストレス、掻破行動への視点は、その治療に代わるものではありません。
処方された薬を自己判断で中止したり減らしたりせず、症状については皮膚科の先生と相談してください。
まとめ|皮膚だけを見ていると気づかないこともある

今回の患者さんは、日本でもタイでも仕事量は多い方です。
それでも、
日本ではアトピーが悪化しやすく、
タイでは症状が落ち着く。
生活を詳しく伺うと、その背景には、
心理的な負荷、睡眠、仕事後の過ごし方、朝の回復感、季節環境
など、いくつもの違いがありました。
そして日本でも腰痛の施術後には、
「皮膚に手がいかなくなる」
「衝動的に掻きむしらなくなる」
という変化があります。
この一例だけで、その理由を断定することはできません。
ただ、医学研究を調べてみると、「かゆみ」と「掻く行動」は必ずしも同じではなく[4]、アトピー性皮膚炎のかゆみには皮膚・免疫・神経の相互作用が関係しています[6]。
さらに、心理的ストレスと皮膚バリア[2]、アトピー性皮膚炎と睡眠[3]、掻破行動と脳の報酬系[5]など、それぞれについて研究が進められています。
私自身、今回の患者さんとのやり取りを通して改めて感じたのは、
症状が出ている場所だけでなく、その方が日常生活でどのような負荷を受け、そしてどれだけ回復できているのかを見ることの大切さです。
腰が痛ければ腰だけ。
皮膚がかゆければ皮膚だけ。
もちろん、それぞれの症状には専門的な診断や治療が必要です。
その一方で、その症状を持つ「人全体」を見ていくと、今までとは少し違った身体の見え方がしてくることがあります。
【監修:柔道整復師 神田博行】
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- 次回ご来院時にお支払い または
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ポリシーの見直し
予約枠の確保とサービス維持のため、内容は予告なく変更する場合があります。
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